《MUMEI》

「へい、平気。早く、か、帰りたい」
「ん、歩けるか?」
「うん、」

冷えきった裸足の足がコンクリートに触れるたびに小さな砂利を踏んで痛かったけど、まだ後ろで独り言を呟きながら横たわる男がいつか起きだしてくるんじゃないかと思うと、早くここから離れたかった。寒くて怖くて痛くて、俺は隣の体温に擦り寄る。

「なおひろ、」
「ん?」
「‥‥呼んで、みた、だけ」
「何だそりゃ」
「直弘、直弘、なおひろ」
「はいはい」
「あり、が、と」

狭い歩幅で寄り添うように歩きながら、直弘が小さく笑った気がした。
寄り添う36.5℃の熱、温かい手、握りしめる、あぁ、俺は生きてる。
生きて、る。

アパートはすぐそこにあるのに、俺たちはゆっくりゆっくり歩いて行った。
秋の夜の匂いが気持ち良かった。

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