《MUMEI》

湯船を軽くシャワーで流し湯を溜めながら、あの個室の扉を開けたときの光景を思い出す。
頭上に拘束された細い腕、タオルを噛まされ怯え切った顔、覆い被さる男の肩に抱えあげられた生白い脚。
カッと頭に血が上った。何が何だかわからなくて、ただ吹き荒れる怒りのままに、こちらを向く男を薙ぎ倒し蹴り付けた。警察に連れていくなんてそんなこと欠片も思い浮かばず、ただ沸騰する怒りのままに男を蹴り続けたのは覚えている。先ほど起こったことなのに感覚が非現実的だ。それほどに感情が昂ぶっていた。もはや怒り、なんて可愛らしいものじゃない。
あの感情は、



憎悪、だ。

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