《MUMEI》

「なおひろ‥‥?」

背後から不安そうに揺れる擦れた声が聞こえて、俺は慌てて振り返る。狭い浴室の扉からこちらを覗く顔はところどころ痣が出来ていた。
沸騰する感情、脳と腹の奥からごぽりと零れる。わからないまま茶髪男の細い身体を抱き寄せる、と、瞬間的に強張る身体。

「な、に?なおひ、」

抱きしめて頭頂部に鼻先をうずめると、馴れ親しんだ香水の匂いがした。離したくない、もう誰にも触らせたくないと痛切に思う。

「いた、い」
「‥‥ごめん」

小さく呟かれた言葉に腕をほどくと、こちらをちょっと見上げる茶色の目と出会う。

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