《MUMEI》 「孝太さん、俺がやりますから代わって下さい」 「ダメだ」 そう言うと孝太は私の足に触れた。 直に触られて、私の体が一瞬震えた。 「すぐ、…終わるから」 孝太は珍しく優しい口調で、宣言通り素早く私の足にミュールを履かせた。 ホッとして、私は息を吐いた。 孝太はゆっくり立ち上がると、私の顔をまじまじと見つめた。 「? …何?」 「いや。…立ってみろ」 孝太が私に手を差し出した。 「俺が…」 「それなら、両方に掴まれ」 「自分で…」 『立てる』と言いかけた時。 グイッ 「キャッ」 孝太に腕を引っ張られて、強引に立たされた。 よろけた所を、しっかり支えられる。 (びっくりした) 「大丈夫か?」 (自分で引っ張ったくせに…) 「大丈夫です。離してください」 すると、驚くほどあっさりと、孝太は私を解放した。 「今日の孝太さん、強引ですよ」 「お前等が蝶子の誕生日教えないからだ。 おかげでこっちは何も用意できなかったんだぞ。 …これくらいしてもいいだろう?」 普段無口な孝太が珍しく沢山喋った。 それだけ不機嫌だという事だろう。 前へ |次へ |
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