《MUMEI》

「ん?」
「大丈夫じゃないだろ、こんな‥‥」

頬に残る青い痣、唇の端に滲む血、首筋の歯形、今は服に覆われて見えなくてもきっと同じようなんだろう。何よりその心に付けられた傷は取り返しがつかないかもしれない、その証拠に、今もこんなに震えて、抱きしめたときも身体を強張らせて。
腹の奥で何かがのたうち回っている、黒い、どろりと粘性を帯びた感情の塊。憎悪、殺意、嫉妬、独占欲、こいつは、こいつは俺のもんだ。こいつは俺のもんだ。
ぎゅう、と抱きしめる。痛いに決まっている、間違っていることもわかっている。でも、それでも、失いたくなくて抱きしめる。
痛いよ、と柔らかく笑われた。抵抗しない優しさに甘える。

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