《MUMEI》

「すみませんってさっき何度も言ったじゃないですか」


「足りない」


「そんな〜」


「第一…」


?


孝太が雅彦に何かを囁いた。


雅彦の顔が青ざめる。


「どうなんだ?」


「それは、あの…」


その時。


「孝太、飲まないのか?これ」


会場の隅にいた克也さんが、日本酒の瓶をこちらに見せた。


「それは…」


孝太の目が輝く。


「早く来いよ!無くなるぞ」


孝太はすぐに克也さんの元へ移動した。


「助かった〜」


雅彦は、心底ホッとしたようだった。


「何話してたの?」


「あ…いや〜アハハ!」


雅彦は不自然に笑いながら、言葉を濁した。


「雅彦?」


「あ、俺! トイレ! じゃ!」


雅彦は、慌ててトイレに走って行った。


(そう言えば、雅彦の誕生日の時もトイレに逃げたっけ…)


どうやら雅彦にとって、トイレは避難所らしい。


「あら、可愛いわね」


「「可愛い、可愛い」」


咲子さんを筆頭に、衛さんと双子がやってきた。


「酷いよな。俺、何も用意できなかったのに」


双子に連れられた和馬はうらめしそうに私とミュールを見つめた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫