《MUMEI》

「怖かったけどさ、直弘が助けにきてくれたから」

何で

「マジでやばかったからな、あん時。あのタイミング、ドラマみたいだったよ」

何でそんな笑えるんだよ、お前

「カッコよかった」


腹の奥で喚いていた感情たちが、解熱剤を含んだように納まっていく。単純な言葉は暗く煮えたぎっていた腹の奥底に染み渡る。こいつは今俺だけを見ている、独占欲を満たされて満足する俺の中のどす黒い感情たち。

くしゃり、と茶色の目が笑った。

無理をしているんだろう。強がってるんだろう。こいつは男で、力だって、プライドだってあるはずだ。それをあんな風に拘束されて未遂とはいえ犯されて、平気なはずがない。

でも、銀二は笑った。

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