《MUMEI》
着信。
“…え?この人さっきの花屋の…。”




『…はぁ…はぁ…。
すいません急に……
……私、あなたとお話がしたくて………
……あなた瑠伊さんですよね?』




…驚いて返事を忘れた。




『…何で私の名前を?』




『…良かった。
…やっぱりそうだった。
申し遅れました。私はユウっていいます。ヨウスケさんの所属チームのマネージャーをしてます。』





『…はぁ。で、何で私の名前を知ってるんですか?』




『あっ!すいません。ヨウちゃんの部屋で前に写真を…。』




“ヨウちゃん?”




“ヨウスケ…彼女にヨウちゃんって呼ばれてるんだ……。”




…変なの。
全然“ヨウちゃん”ってキャラじゃないじゃん。




『…へぇ。それで、私にお話って何ですか?』




思わずイヤな言い方になった…。




『…あの。なんか怒ってますか?』




彼女が、恐る恐る聞く。




『…いいえ。別に。』




…嘘だった。
めちゃくちゃ腹が立っていた。これはヤキモチだ…。



『じゃあ、すぐ近くにカフェがあるんです。一緒にお茶でも飲みながらお話を…。』




…無理。
私、そんなに我慢強くないし…今でも泣きそう。




『ごめんなさい。私、急いでるんです。』




目も合わせずに言った。




『…そうですか。すいません急に…。』




彼女はまだ話していたけど、ヘルメットを被り、何も聞こえないふりをしてバイクを走らせた。




彼女が、深々と頭を下げていたのがサイドミラー越しに見えた…。




すぐの交差点を左折して、彼女が見えなくなったのを確認してバイクを止めた。



涙で目がぼやけ、ヘルメットが曇ってしまったから運転なんて出来なかった…。



…近くのビジネスホテルまでバイクを押して歩いた…チェックインした後はただ、ただ泣き続けた。




…私は何のためにヨウスケに会いたかったの?




…きちんと“さよなら”を言うため?




…もう一度やり直すため?




…分からなかった。




“ただ会いたかった。”




それだけだった…。




気が付くと…時計は12時を回っていた…。




“今日…ヨウスケ…手術なんだ……。”




…ヨウスケの事が気になる。




私は電話を手に悩んだ。




リコに言えば、きっと一緒に泣いてくれる…




コウタに言えば、きっと元気付けてくれる…




憐に言えばきっと、怒られるかな…




なんて思った…。




自分で決めないと…。
誰にも相談しちゃいけない。私の気持ちは…。




答えは決まってた。




私はヨウスケに会いたい。




その先に何も求めない…。




そう決めた時…携帯が鳴った。




“ん?公衆電話…?”



…誰だろう?




『…もしもし。』




『……。』




『もしもし?…どなたですか?』




…無言電話だった。
こんな夜中に…。誰よ…気持ち悪い。




と思い、切ろうとした時…




『……俺。
…ヨウスケだけど……。』




ヨウスケ!?




ヨウスケからの3年ぶりの電話だった…。

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