《MUMEI》

家…椎名酒店に戻ると、
家には誰も居なくて、しんとしていた。


配達する家が分からなかったので、
手持ちぶさたに家の前をぶらぶらしていると、
あることを思い立った。


携帯を取り出し、椎名くんに電話をかける。

何回かの呼び出し音のあと、椎名くんが電話に出た。



『もしもーし』


「あ、椎名くん、あたしさ、ちょっと用事思い出しちゃって…
30分もかかんないと思うから、待っててくんないかな??」


『…おう。別にいーよ』


「ごめんね、ありがとう!!」



電話を切ると、私は自転車に跨がった。

椎名くんの自転車。
本来の私ならサドル高すぎて乗れないだろーな…


自転車をこぎだす。




―…向かうは、前田さんの家だ。

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