《MUMEI》

おれが空手を始めたのは、
小学校3年…―おれの親父が、死んだときだった。



『…俺の代わりに、すみれさんを…守ってくれ。』



おれの親父、椎名勇作は、白血病で亡くなった。

最期に―…、
男の約束な、と笑って。


『すみれさん』ってのは、おれのおふくろだ。
おれは子供心に、
『男の約束』を果たそうと必死で、

親父とおふくろの共通の親友だった師匠に、
空手を教えて欲しい、と頼み込んだ。



あの頃は、とにかくおふくろを守るんだ、約束守るんだ、って
それだけがおれを動かしてて。

―…まさか、こんなに空手にハマるとは思ってもみなかった。


それもこれも、師匠のお陰なんだよな。

がむしゃらに空手に打ち込むおれに、



『ただ強いだけじゃあ、何も守れやしねえぞ。
…傷ついて、傷つけるだけだ。』


師匠は、そう語りかけた。

俯くおれに、



『空手は、好きか??』



…笑って、答えをくれた。



その時大きく頷いてからおれは、

空手が楽しくてしょうがなくなったんだ。

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