《MUMEI》

「アタシらは幼馴染みでね、まぁ、
あの人は2つ年上だったんだけど。
…ちっちゃい頃からいつも一緒だった」



遠くを見るように目を細める前田さん。



「体が弱くてね、でも、いつも一生懸命だったよ、あの人は。
でも男らしくないのよ、全然!!
…待ちきれなくて、アタシからプロポーズする始末!
ほんと、笑っちゃうわよね…」



微笑む前田さんの瞳には、優しい色が宿っていた。



「知っての通り、花が大好きな人で…
アタシのことより花が好きなんじゃないかって、妬いたこともあったっけ…
好きだ、なんて言ってくれたことも無かったしね」



そこで話を切ると、前田さんは小さく息を吐いて、続けた。



「…でもね、一度、あの人が私に訊いたのよ。
亡くなる3日前…

『ミヨちゃんは、幸せだったか』って…」



前田さんの旦那さんは、
僕なんかと一緒にいて、幸せでしたか―、
と、振り絞るように小さな声で聞いたそうだ。



「アタシは、『バカなこと訊かないでよ』って、笑って―…」



前田さんは、後悔を吐き出すように言った。

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