《MUMEI》 「その花…『ゼラニウム』って言うんです」 私は、赤い花を指差して言った。 「そうなの??花の名前なんて、知らなかったわぁ…」 前田さんは、感心したように言う。 「旦那さん…その花だけは枯らすなって、 大事に育てて欲しいって… ―…そう言ったんですよね?」 「そうよー、ほんと、薄情よねぇ」 私が訊くと、前田さんはふざけるようにそう答えた。 「赤いゼラニウム―…前田さん、この花ぜんぶ、旦那さんからの気持ちですよ」 私は、庭いっぱいに咲き誇り、 風に優しく揺れる赤を見渡しながら、言った。 「え??」 「花言葉は―…」 『君ありて、幸福』 この花が、ふたりの愛のかたちだった。 …なんて回りくどいんだろう。 でも、 なんて真っ直ぐで、美しいんだろう…!! 「…ほんとに…バカねえ…、 ―…ヒデさ…っ」 言葉を詰まらせ、肩を震わせる前田さんを包み込むように、 赤いゼラニウムが、 やさしく、優しく揺れていた。 前へ |次へ |
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