《MUMEI》

「ツン……、なんでそんな平静な訳?」

兄貴が去って10分くらい思考停止していた。

「平静ではないけど……。
本人の方が大変みたいだったし、入る隙が無かっただけだよ。」

ツン……じゃなかった、タカトオヒカルはゆっくり息を吐く。


「俺、声が出なかった。」

情けない。
もっといっぱい言うことあったのにフリーズしちまった。

「ゲーニンっすから。」

ツンはまだ硬直したままの俺の指を握る。


「俺の器がちっちゃかっただけかも。」

「みきすねは国雄を思って口に出せなかったんだよ。あそこで責め立てても良かったもの。
それを我慢した。」

綺麗事を並べ立てる。

「よくそんな考え方出来るな……」

やっと俺は口が回るようになってきたのに。

「話していないと不安みたい。そうやって口に出すから災いの云々になるんだけどね。」

やる瀬なく笑う。
そうやって弱々しい顔を見せると高校生っぽい。

「……しょうがねえなあ、何を話す?」

俺、ツンがいなかったら駄目だった。

「お菓子の形した匂い付き消しゴムの匂いについて」

「なんだそれ。」

ツンがいてくれたから、俺は笑えた。

「匂い付き消しゴムって一定の匂いするよね」

ツンがいなきゃ俺じゃいられなかった。

「嗅がなかったな。」

「嘘だあ……」


話題に詰まった。
どうしようか。



  「「………………」」

キス、したいな。
指だけじゃ、怖いじゃないか。
だってツンの指は細くて溶けていきそうだ。

「怖いんだ。
ちゃんと帰ってくるよね?
国雄に連絡してしまいたいけど、今しても俺では何も出来ない。」

抱きしめてやる。

「帰ってくる。たくさんのものがここで繋がっているから。」

ツンは意外と俺の指でもすっぽり収まった。

今しても自然な流れだったろうけどキスは出来なかった。
今したら恋と勘違いする。

兄貴のものだから。
彼等への信用を裏切りたくない。

「みきすねって大人だね。」

俺に応えないように両手に握り拳を作っている。
どっちが大人だ……

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