《MUMEI》

結局、該当する者はいなかった。


「もう一回!もう一回!」

俊彦が騒ぎ出す。


男性陣も、俊彦に便乗して、店内に『もう一回』コールが響き渡る。


「饅頭無いのにどうすんだよ」


春樹さんは頭を抱えた。


その時。


「あ、もしかして」


薫子さんが、何かを思い出したようだ。


?


「どうした? 薫子」


「うん、…」


薫子さんが言いかけた時。

ガラッ


『赤岩』の入口が勢いよく開いた。


皆が注目する中、『彼』は脇目もふらずに私に向かってくる。


私も自然と『彼』に向かって行った。


「ちょこちゃん」


『彼』はまだ私を『蝶子』とは呼べなかった。


私は『彼』を抱き締めた。

「一年振りね、友(とも)君」


「うん!」


私の腕の中で笑う『彼』


友和(ともかず)の口の周りには


粒あんが付いていた。

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