《MUMEI》

ティッシュをとって薄く開いた唇から垂れる涎を拭ってやると、くすぐったそうに銀二が笑った。言葉にならない意味不明な発音を漏らしてまた眠りにつく。その無垢な寝顔に愛しさが募る。

いっそこのまま閉じ込めてしまいたい。
誰にも触れさせないように、ずっと。

殺意さえ芽生えた強姦魔と同じ自分の思考に思わず自嘲する。

どうかこの衝動が爆発しないうちに、朝になればいい。朝になって、またゲームをして、くだらない話をして、それでいい。
色んなことがあった夜だからこそこんな衝動が生まれるんだ。今日が明日に塗り変われば、きっとこのどす黒くて醜い衝動なんて嘘のように消え去って、またちゃんと普通の顔をしていられる。友人でありバイト仲間の英田直弘として、こいつの隣に立てる。


だから、どうか早く、
早くこんな夜は終わってくれ。
この一瞬が、俺たちの一生を滅茶苦茶にしてしまう前に。


隣の体温はあまりに遠く、かわりに自分の中で渦巻く感情と衝動を抱き抱えながら、俺はただひたすらに朝を待った。

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