《MUMEI》
賭け。
『…ヨウスケ!?』




『…うん。』




『本当にヨウスケなの?』




『…うん。瑠伊…番号変わってないんだな…。』




しばらく沈黙が続いた。




『…ヨウスケ大丈夫なの?』




沈黙に負けて私が聞いた。



『やっぱりお前知ってるんだな…。ユウが今日、花屋でお前に会ったって言ってたから…。』




『…うん。会ったよ。ユウさんってスゴくキレイな人だね…。』




『……。』




ヨウスケは、すぐ黙る。




私は負けずに話し続けた。




『今日会いに行ってもいい?…ヨウスケ手術なんだよね?大変な時にゴメン…。でもどうしても会って話がしたいの。何時頃なら会えるかな?』




しばらく黙った後、



『……会えない。』




予想通りの答えだった。



『そっ。さすがに術後すぐは会えないよね。いつなら会えるの?』




きっと…そういうことじゃないって分かってた。




『…俺、瑠伊にはもう会わない。病院にも来ないでくれないか?…頼む。』




…もう限界だった。
精一杯、強がってみたけどヨウスケの困ってる声が分かって辛かった…。




枯れるまで泣いたと思ってたけど…涙は枯れてなんてなかった。




次から次に溢れてくる涙はもう止まらない。




『どうして……?……会ってもくれないの。…私のことそんなにキライ…?』




震える声を必死に押さえながら聞いた。




『………。』




黙っているヨウスケ。
公衆電話に十円玉を入れるカランカランッという音だけが聞こえてきた。




『…ズルいよ。ヨウスケ。私が今までどんな気持ちだったか……
どんな思いで東京まで来たか。ちっとも知ろうともしないで…。』




大きく深呼吸してから私は最後に賭けに出た…。




『…ふぅーっ。
ヨウスケ。
私は今日病院に行く。
それでも会ってくれないなら諦める。
ヨウスケと出会ったこと、ヨウスケとの思い出すべて無かったことにするから。』




と言って一方的に電話を切った。




電話を切ってからどのくらい経ったんだろう…。




気が付くと、空は明るくなりだしていた。




“よしっ”




それから2時間ほど寝て、腫れぼったい目には変わり無かったけど、気合い十分なメイクをした…。
朝マック食べて、オシャレな店でワンピースを買ってみたりした。




“ヨウスケはきっと会ってくれるから。”




気が付くともう夕方の4時過ぎだった…。




あっ!
今日ヨウスケ手術だった…。結局、病気か、ケガかも分かんないけど…。
上手くいったのか急に不安になった…。




病院に着いて、看護師さんにヨウスケの病室を聞く。



お見舞いには、とても違和感のある、気合い十分な私の姿に驚きながらも教えてくれた。




そして、
『手術後で体力と免疫力が落ちてるから、あまり長時間は困りますよ。』
と注意された。




やっぱり、私の格好は相当オカシかったらしい…。




案内してもらった病室の前には、たしかにヨウスケのネームプレートがあった。



トントンッッ。




軽くノックをして目をつむった。




『…私。…瑠伊。』




“…怖い。怖いよ。帰れって言われたら…”




自分の心臓の音が聞こえる。




ドクドクドク……。




その時、




ヨウスケの声がした。





『…どうぞ。』




優しい声だった…。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫