《MUMEI》

「荷物持ちよ」


華江さんの言葉に、『だったら俺が』と言う声が相次いだ。


「あら、幼児がいる家族の荷物は結構あるわよ?
帰りは多分、友和も荷物になるし。

彼ね、駅と会場の往復から、花火大会の最中もずっと荷物持ってくれるって」


花火大会の会場から、駅までは徒歩十五分。


花火大会は、約一時間行われる。


しかも、当日は慣れない浴衣と下駄だ。


大変さを想像して、周りが静かになった。


「俺はダメだ!そんな根性ない」


「…同じく」


和馬と孝太が言うと、男性陣が『そうだよな』と口々に言った。


「じゃ、じゃあさ!」


祐介さんが何か閃いたようだ。


『なっ』と勇さんに確認すると、勇さんが頷いた。


「雅彦か克也は?」


確かに、雅彦は俊彦より力があった。


(でもな〜)


「俺、スニーカーならいいけど、下駄は無理」


そうなのだ。


『シューズクラブ』に配達に行った時。


下駄で一番苦戦していたのは雅彦で、一番余裕なのが俊彦だった。


(友君、落とされたら困るし)


「じゃ、じゃあ、克也は?」


「俺は…」


勇さんの言葉に、克也さんは女性陣を一瞬見つめた。


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