《MUMEI》

「これ、あげるから蝶子ちゃんと浴衣デートは諦めてって言ったの」


「あの二人にですか?」


華江さんは首を横に振った。


そして


「俊彦君も含めた三人によ」


と言った。


「…え?」


「元々この写真はね、あの三人用に持ってきたの。

蝶子ちゃんは嫌がるだろうけど、何かあったら『これあげるから大人しくしなさい』って使おうと思って。
咲ちゃんからも、『あの三人には効果ある』って言われてたから」


確かに効果はあった。


和馬と孝太は、写真を受け取り、浴衣デートを諦めた。


「でも、一番欲しがると思った人は、見もしなかったわ」


それは、私には信じられ無かった。


(私の足の写った写真よりも、足の見えない浴衣を優先させるなんて)


「足とか浴衣とか以前に、何か二人で話したい事があるみたいよ」


「何ですか?それ」


「さぁ…それは…言ってくれなかったけど」


華江さんは困った表情になった。


「それでね、蝶子ちゃん」

「はい?」


「五分だけ、俊彦君に話す時間をあげたいんだけど、…いい?」


「二人きりで、ですか?」

華江さんは頷いた。


(五分だけなら…いい、よね?)

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