《MUMEI》 前田さんは、私に何度もお礼を言った。 私は前田さんに軽く挨拶すると、前田さん家を後にした。 自転車が公園の前にさしかかったとき。 「…なきむし」 いきなり聞こえた声に振り向くと、公園のフェンスに寄りかかる私の姿。 「…椎名くん」 私が自転車を止めると、椎名くんはすたすたと私に近づいてきた。 私に向かって手を伸ばす。 …どうしよう。 遅くなったから、怒ってる…!? 「…ご、ごめ―…」 「ありがとな」 謝ろうと口を開いた私の前で立ち止まった 椎名くんの口から発せられた言葉は、意外なものだった。 「…え…??」 驚く私の目尻を親指で拭うと、 椎名くんはにっこり笑って言った。 「―…ありがと。前田のおばちゃん、素直にさせてくれて。」 「き、聞いてたの…!?」 「ん―…、途中から、な。 ……にしても、お前泣き虫な!!仮にも見た目おれなんだからな!?」 「ご、ごめん…」 椎名くんが、可笑しそうに笑う。 「…行こーぜ、配達」 私は、小さく頷いた。 前へ |次へ |
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