《MUMEI》

配達もあと1件を残すところとなったとき。



「あ!!!!」



いきなり蓬田が叫んだので、びびって
ゴジラのリードを思いっきり引っ張ってしまった。



「な、なんだよ…!?」


「いま、思い出した…」



おれに顔を向ける蓬田。


…なんだよ、何思い出したんだよ…??



「吉田ゆりちゃん!!」



蓬田が発したのは、知らない女子の名前だった。



「……だれ」



おれが素直に訊ねると、蓬田は目を丸くした。



「えっ!?知らないの!?」


「…だから誰?有名人??」


―…悪いけど、おれアイドルとかには興味ねえよ??


「そか、知らないのか……えっと―…」


「……??」



途端、口ごもる蓬田。

やがて、意を決したように、こう言った。



「…今日ね、駅でその子に言われたの。
―…『付き合って欲しい』って」

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