《MUMEI》
内藤視点
――びっくりした!
いや、だって…
「意外と普通の車なんだね〜!芸能人ってポルシェとフェラーリ乗ってるイメージあったからさ〜!」
そう言いながら折原は後部席のドアに手をかけた。
「おい!普通助手席だろ!なあ、そんなに俺の事キライ?」
「え?」
なんかめちゃめちゃびっくりした表情で俺を見ている。
「…あ…、ゴメン、前に乗って貰えるかな?」
俺はもう一回ゴメンねって言いながら助手席のドアを開けた。
折原は黙って乗り込んでくれた。
▽
「折原はポルシェとかの方が好き?」
「ううん、こ〜ゆう方が好き」
「…良かった」
何も考えずに軽自動車買ったばかりだったから、いきなり買い換えかよってちょっと焦った。
ちらっと折原を見る。
――やっぱ兄妹そっくり…。
でも折原の場合髪も目も黒いから日本人に限りなくちかい感じ。
つか、本当…、メイクしちゃったらスーパーモデルなみに派手に綺麗だ。
しかもダボダボしたTシャツ姿しかしらなかったから躰のラインが出る今の服装…。
「何処まで行くの?」
「ン、銀座」
「そうなんだ」
折原はじっと外を見ている。
「ね、羽鳥圭って知ってる?」
「?は?知らないけど…、美味しいんだ、そのお店」
「……まあ、う〜ん」
暫しの沈黙。
そしてあっという間に銀座の地下駐車場につき俺達は車から降りた。
▽
折原は黙って俺の後ろをついてくる。
エレベーターに乗り込み、俺は気になっていた事を吐きだした。
「な、折原は囲碁打てんの?」
「え?囲碁?出来ないけど、なんで?」
「だって囲碁雑誌立ち読みしてたから…、つか坂井さんも見てるって言ってたじゃん」
「あ〜!あれは四コママンガ見てただけだよ!」
「…はー…、そうですか」
話合わせようとして毎日練習してた俺って一体……。
軽い疲労を感じながらも地上に降り立ち、マロニエ通りを歩く。
――思ってたより人が歩いていない。
俺は帽子を深く被りなおし、折原の隣に並んだ。
俺は思いきって…
なるべく自然に折原の指先に触れ、そのまま緩く握った。
直ぐに振り払われるかなと思ったけど、払われることもなく、しかし握りかえされる事もなく、…そのまま二人黙って歩いた。
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫