《MUMEI》

孝太は和馬に声をかけた。

「何とか…」


和馬は私には相変わらず背を向けていた。


「もう、何なの?!」


私がいくら訊いても笑ったり赤くなるだけで、誰も何も答えてくれなかった。


数分後。


「…お世話になりました」

気まずそうに奥から出てきた俊彦の肩を、海さんが無言で叩いた。


ようやく私の方を見るようになった和馬も孝太も雅彦も、無言で順番に俊彦の肩を叩いていく。


「花火大会大丈夫か?」


孝太の言葉に俊彦は小さく頷いた。


(具合でも悪いのかな?)


花火大会は明後日に迫っていた。


「大丈夫?」


「き、来ちゃダメ!」


「は?」


俊彦は、雅彦の後ろに隠れ、顔だけ出した。


これでは、いつもと逆だ。

「あ〜、今日は俊彦にはもう寄らない方がいいよ」


「お前にもな」


孝太の言葉に和馬は『うっ…』と言ってうつむいた。

「じゃ、帰りましょうか」

「はい。…おやすみなさい」


私は丸山夫婦にだけ挨拶をした。


そして、屋台で買った物のうち、二つ買えた物や半分にできる物は手渡した。


(もったいなかったな)


テーブルに置いたかき氷はすっかり溶けてしまっていた。

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