《MUMEI》

何もわからないまま、私は連れ出された。


二人は『華江さんから連絡もらったから』と言っていた。


家を出る時、浴衣一式とウィッグも持ち出した。


向かった先は、『花月堂』の奥にある、いつも着付け教室が行われる和室だった。


私達を待っていたのは、薫子さんと、蘭子さん、それに瞳さんだった。


「あの…これって一体?」

混乱している私に、瞳さんが説明を始めた。


「ちょっとした『賭け』をしようと思ってね」


(賭け?)


「誰と、誰がですか?」


「華江さんと俊彦」


?


瞳さんは続けた。


「華江さんが勝ったら、蝶子は一人で自由行動。

俊彦が勝ったら蝶子と二人でデート」


「デ…」


「頑張って、勝ちましょうね」


瞳さんが言うと、私以外の四人が『おぉ!』と言った。


(何だかわからないけれど)

私はとりあえず、皆に『お願いします』と頭を下げた。


俊彦とは、チョコバナナの時以来会っていなかった。

そして、私達は、午後五時まで、念入りに準備をした。


「早く乗って!」


愛理さんが仕事用のワゴン車で、迎えに来た。


支度を終えた私と結子さんと麗子さんは、車に乗り込んだ。

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