《MUMEI》 ヘアメイクも、普段の私に近かった。 沢山の同じ浴衣の集団の中、浴衣の麗子さんに付き添われながら、結子さんはうつむきながら俊彦の前を通り過ぎようとした。 その時。 俊彦は、私と間違えて、結子さんの手を掴んだのだ。 呆然とする俊彦。 その隙に、恋人同士を装った私と相田さんは駅を出たのだった。 そして、晴れて自由の身となった私は、信号が青になったのを確認し、国道を渡った。 着いた場所は、町役場の駐車場。 夜はチェーンが張られるので、車は入れない。 (よいしょ) 普段なら跨ぐ所だが、浴衣なので、身を屈めてチェーンの下をくぐり、私は中に入った。 中には誰もいなかった。 (今でも知られてないんだな) ここから見える花火は本当に綺麗なのだ。 私は駐車場から役場上がる階段の前に来た。 (えっと…確か、五段目よね?) 昔の記憶を辿りながら、階段を上がる。 (そうそう、この景色) 私は巾着袋からハンカチを出して階段に敷き、腰を降ろした。 その時。 「あれ? 先約がいた」 この場所を私に教えた人物の声が後ろから聞こえた。 ー俊彦だった。 前へ |次へ |
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