《MUMEI》 人魚姫「こんばんは」 俊彦は穏やかな口調と笑顔で私に話しかけてきた。 (もしかして…気付いてない?) 「あ、別にナンパじゃないよ。俺はね、毎年ここで花火を見てるんだ」 俊彦は、本当に気付いていないように見えた。 (喋ったら、バレるよね) 私は無言で俊彦の話を聞いていた。 「もしかして、君…」 俊彦は、私をまじまじと見つめた。 (やっぱりバレた?) この場所は薄暗いが、この距離ではさすがに… しかし、俊彦は意外な言葉を口にした。 「もしかして、喋れないの?」 俊彦の口調は真剣だった。 私が化けすぎなのか 俊彦が鈍すぎなのか よくわからないが、私は無言で頷いた。 「そうか〜」 俊彦はあっさり納得した。 「あ、そうだ。俺はね、俊彦って名前なんだ。 君は、喋れないんだっけ?」 私は頷いた。 「『君』じゃ、味気ないよな。 そうだ!君のこと、『人魚姫』って呼んでもいい?」 (何で?) 私は首を傾げた。 「喋れないお姫様って言ったら『人魚姫』でしょう? ね、決まり!」 こうして、私の名前は『人魚姫』に決定した。 前へ |次へ |
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