《MUMEI》

『俊兄』は、私から慌てて離れた。


私も、村居のおばさんの声で目が覚めた振りをした。

『…ん…』


『蝶子、…おはよう。スイカ、食べたら勉強しような?』


『うん』


私の唇には確かに『俊兄』の唇の感触が残っていた。

しかし、その事を話したくても、『俊兄』はそれ以来、私を避けるようになった。


私のファーストキスは俊彦だったのに。


「俺、今以上にガキだったし。それなのに、その頃からもう、『オスの本能』っていうか、性欲あったし。
ヤバいだろ俺、蝶子まだランドセルしょってるんだぞって焦っちゃってさ〜

あぁ、ごめんね。女の子にこんな話して」


私が無反応だから、俊彦は私が怒ったと思ったらしい。


(俊彦、そんな事考えてたんだ)


私はただ驚いただけだったので、首を横に振った。


私の視線は相変わらず、花火の方を見つめていた。


「良かった〜。あ、これ飲む?」


俊彦が、私にウーロン茶のペットボトルを差し出した。


私は頷いて、ペットボトルを受け取り、ウーロン茶を一口飲んだ。


俊彦も、手に持っているウーロン茶をゴクゴクと飲んだ。


「で、まだ続き、聞いてくれる?」

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