《MUMEI》
携帯電話。
誰もいない家の鍵を開け、小夜子は東京の家に帰って来た。今まで一人暮らしを一度もした事がない小夜子にとって、鍵を開けて家に入るという行為がとても新鮮だった。だが、暗い家に帰るのは、やはり淋しかった。
“ちょっとコーヒー飲んでから、夕飯作ろう…まだ8時だし、どうせあの人が帰ってくるのは、また12時位だろうし…”
小夜子はリビングに行き、ソファーに体を鎮めた。
“あら?珍しい…忘れて行ったんだわ。”
テーブルに置かれていたのは、彼の携帯電話だった。“ほんと、珍しい…いつも朝忘れても昼に取りに帰ってくるのに…家から近いって便利よね。”
小夜子は何気なく彼の携帯を持ってみた。暗証番号でロックが掛かっている事は知っていたが、彼がいつも持っているものに触れていることで、無意識に淋しさを紛らわせようとしていた。
“どうせ、ロックが掛かってるし…”
軽い気持ちで携帯電話を開いてみた。小さな音を響かせ、待受画面が明るくなった。
“あっ、見れる…”
小夜子はびっくりして、すぐに携帯電話を閉じた。 見てはいけないという気持ちと、どうしても見てみたい衝動にかられた。
“見てない振りをして、見てみよう。聞かれてもロック掛かってるんでしょって言えば、きっと大丈夫…“小夜子は、深呼吸をして彼の携帯電話の電話帳を開いた。家族・会社・友達と綺麗にグループ分けされた中にガールフレンドと言う文字が読めた。
“これは?”
小夜子の指はもはや明確な意思を持ったようにガールフレンドと書かれたグループを開いていた。そしてその中には4人の名前が記されていた。
“加藤 浩嗣・加藤 礼二・美和・まりえ…なぜガールフレンドなのに男の名前が?この人達はなんなの?”
小夜子は、心臓が破裂しそうな程脈打っている事にも気付かず、今度はメールボックスを開いた。受信メールを一つずつ読んでいく。友人・会社のメールに混じり、“出会い喫茶 渋谷ランド”のチェーンメール、そのほか女性からの多くのメールを受信していた。
「なおだよ。今日は生理中でだめなの。サッカーの試合に出るんだぁ。テレビにも出るじょ(^O^)。また、誘ってね。×××。」
「昨日は楽しかったです。どうも有難う。また会いたいので、メアド教えますねo(^-^)o今度はもう少し安くしておきます(笑)早実、勝ってるよぉ。長谷より」
小夜子には何が何だか解らなかった。メールの内容も女性達の名前も、小夜子の心が受け付けなかった。
“これは、どういう意味なんだろう…生理ってあれ以外に意味があるのかな…安くしておくって、お金の事だよね…”
受信メールはまだまだ続いていた。
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫