《MUMEI》

「…謝らないよ。これで、俺の気持ち、わかったよね?」


俊彦は私の涙を舐めた。


「わ…かんない…よっ…」

「…蝶子?」


私にはわからなかった。


俊彦の気持ちではなく、自分の気持ちが。


「わからないの?」


「何で…、わかんないのか…っ …わからない」


私は本当に子供のように泣きじゃくった。


「何がわからないの?」


俊彦が私の体を、今度は父親のように優しく抱き締めた。


「ねぇ、何がわからないのか、わからないと俺もどうしていいかわからないよ?」


俊彦は、私の背中をさすりながら、優しく話しかける。


「だってぇ…」


一気に沢山の事が起こり過ぎて、私は混乱していた。

「本当に、わからないの?」


俊彦の言葉に、私は頷いた。


わからない。


自分の気持ちが。


自分の体が。


(どうして…)


俊彦を本気で拒めないのか。


(ストーカーの時は出来たのに…)


あの時は大声も出せたし、体が震えて鳥肌が立った。

(でも、…さっきは)


言葉もうまく出なくて、体がカッと熱くなった。


「しょうがないな、蝶子は。…早く俺を好きになるんだよ?」

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