《MUMEI》

警察による一連の家宅捜査が終了し、
実家を行きき出来る許可が出たのはその後すぐだった。


オレは夕方過ぎ、
1人実家へと帰った。

静まりかえっていた近隣の家々も、
今は普段どうりの生活が見てとれ、
オレの住んでいた家だけが音を無くし大きく佇んでいた。


玄関には母の自転車が止まっている。


母はオレが小学生の頃、
まだ自転車に乗れなかった。


理由はわからない。


純粋に乗るのが怖かったのか、
必要がなかったのか、
とにかく必死に練習をしていた。


転倒しない様に、ゆっくりゆっくりと走る赤い自転車を、
小学生のオレは何度か見た事があった。


夜つゆに濡れた自転車のサドル。


空は、夜を迎えようとしている。


空気がトゲの様に鋭い。


ひとつ大きく深呼吸をし、

オレは玄関に手を伸ばし覚悟を決めた。

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