《MUMEI》

和馬は双子を連れて、隣の双子の部屋に行ってしまった。


部屋には、孝太と私の二人きり。


『孝太も狙ってる』


俊彦の言葉が頭をよぎる。

「随分、皆に迷惑をかけたな」


「…皆には、さっき電話で謝りました」


「ふぅん?」


うつむいた私の顔を、孝太が覗き込んだ。


「…俺には、謝らないのか?」


「…孝太さんも、私を探したんですか?」


「悪いか」


孝太は私の顎を掴んで顔を上げさせた。


メガネの奥の黒い瞳が鋭く光った気がした。


「悪く…ないです」


声が震えた。


「じゃあ、謝れ」


「…ごめんなさい」


「よし」


孝太が私から手を離した。

ホッとしたのもつかの間。

「何だ? それは」


孝太が私の首筋の絆創膏を指差した。


「これは、ちょっと虫に…」


私は慌てて誤魔化した。


「虫?」


孝太は明らかに疑っていた。


「別にいいでしょ、謝ったんだから、もう帰って下さい。
後で和馬さんにもちゃんと謝りますから」


「…見せろ」


「嫌っ…」


孝太が私の首筋の絆創膏を強引にはがした。


「なるほど、悪い虫に食われたようだな」

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