《MUMEI》
消毒
「…」


私は何も言えなかった。


孝太はしばらく俊彦が付けた噛み跡を食いいるように見つめていた。


私は、そんな孝太が恐くて動けなかった。


ペロリッ


「ひゃっ?!」


孝太が噛み跡を舌でなぞるように舐めた。


「な、何を?」


「消毒」


孝太は無表情のまま言った。


「あぁ、そうだ。鍵はどこにある?」


(鍵?)


突然孝太が話題を変えたので私は何の事かわからなかった。


「和馬の部屋の合鍵。…捨てたのか?」


「持ってますけど…」


「出せ」


(何で、孝太に…)


「また、消毒されたいか?」


「出します」


私は机の引き出しから、鍵を取り出した。


私が言われるままに、孝太に鍵を渡そうとした時


「…勝手に何してるわけ? 孝太」


いつの間にか和馬が戻ってきていた。


「軟派なお前に蝶子はふさわしくない」


「少なくとも、サディストのお前よりは優しくできると思うけどな。

大体、俺の敵は俊彦であって、お前じゃないよ、孝太」


「俺だって、蝶子を本気で想ってないお前は敵じゃない」


(何これ…)


いつの間にか和馬と孝太の間に険悪なムードだ漂っていた。

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