《MUMEI》

新幹線に乗る前に、私は寄る場所があった。


「こんにちは…あ…」


「やぁ、お嬢さん」


カウンターから白髪混じりの店長が声をかけてきた。

その隣にいたのは、


「こんにちは、孝太さん」

「お前も、旅行か?」


私より小さめの旅行バックを持った、孝太だった。


ここは、孝太に教えてもらった洋楽専門のCDショップだった。


「…まぁ、そんな所です。あの、注文したもの来てますか?」


「はいよ」


「それ、持ってるだろう?」


孝太の指摘通り、それは初めてこの店を訪れた時に買った、限定版と同じ曲の入った通常版のCDだった。


「うん。…お母さんにね。あげようと思って」


「そうか。一人で行くのか?」


私は頷いた。


本当は、父も華江さんも行きたがったが、二人を嫌っている人物が墓参りに来る可能性があるので、私が代表して行くからと説得したのだった。


「…どこにあるんだ? 墓は」


(う…)


「蝶子?」


私は言葉に詰まった。


「俺の知っている場所か? そうなんだな?」


私の顔を見て、孝太は確信したように言った。


「東京だな? …どこだ?」

私は小声で地区名を言った。

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