《MUMEI》

そこは、偶然にも、孝太の実家の隣の地区だった。


「蝶子」


孝太が私の肩に手を置いた。


「な、何?」


「そう警戒するな、傷付く」


孝太が珍しく悲しそうな顔をしたから、私の胸が痛んだ。


「何もしないから、協力しろ」


「? 何を?」


「和馬と琴子を会わせるのを」


そして、孝太は携帯を取り出した。


新幹線の改札口まで孝太と一緒に行くと、和馬が笑いながら手を振っていた。


「蝶子ちゃん、お母さんの墓参りに行くんだって?」

私は頷いた。


「一人で行くんだって?」

また、頷いた。


「じゃあ、心細いよね」


「…少し」


和馬が私の隣にならんで、肩を抱いた。


ものすごく、嫌だけど、私は我慢した。


「俺も行くからな」


「お前は実家だろ! 俺と違って真面目なんだからな!

蝶子ちゃんは、俺に任せればいいんだよ。

その為に、呼んだんだろう?俺を」


「別に。正々堂々とお前に勝つ為だ」


孝太も我慢しているようだった。


「俊彦には知らせなかったのに?」


和馬は挑戦的な口調で言った。


「あぁ、俊彦は恐いからな。お前なら、余裕で勝てる」


(うわ…)

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