《MUMEI》

後ろから、和馬と琴子さんの声が聞こえた。


「確認しなくて…いいの?」


私は確認したかったが、孝太が早いので、振り向く事ができなかった。


「必要無い」


孝太は真っ直ぐ前だけを向いていた。


「会って話せばそれで解決する問題だ」


孝太はきっぱり言った。


そして、私達は、私鉄に乗り換える為に違うホームにやってきたのだが…


「な、…にもっ…、ここ…まで、走らなく、ても…」

私はすっかり息が上がっていた。


電車が来るまで、三十分はあった。


「悪い」


孝太は涼しい顔をしていた。


「…座ってろ。何か買ってくる」


孝太に言われて、私はホームの椅子に腰かけた。


孝太はすぐにペットボトルの麦茶を買って戻ってきた。


「ゆっくり飲め」


「あり…がと」


私は冷たい麦茶を一口飲んだ。


それから、息を整えながら、少しずつ、ゆっくりと麦茶を飲んでいった。


半分程飲んだ所で、やっと落ち着いた。


「悪かったな、いろいろと」


「…もう少し一緒にいたら我慢できなかった」


「俺もだ。とにかくこれで、和馬が蝶子に手を出す事は、もう、無い」


珍しく孝太は笑った。

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