《MUMEI》

「リサさんの怒声思い出しちまった。」

おじさんは目頭を押さえた。

「我が儘親父め」

我が儘親子の間違いだろ。

「俺、リサさんにゾッコンだったから。」

おじさん、ゾッコンて死語かも……

「それ、もういい、耳に蛸が出来るくらい聞いた!」

七生は耳を塞ぐ。

「遠慮すんなって。リサさんは皆の憧れでマドンナで女神だったんだ。」

七生の手を引き剥がして語り始めた。

「急にリサさんが音信不通なって探したよ、今ならストーカーで確実に捕まっていた。
リサさんな……お前のこと一人で産むつもりだったんだ。

俺でいいなら、彼女の傍に居てあげたかった。
……腹の子の親までにならなくても友達くらいにはなりたかった。」

おじさんは本当に七生の母さんが好きだったんだ。
写真の中の七生の母さんはとても幸せそうだ、こんなに惚れられてたのだもの、きっとおじさんのこと好きだったんだ。

七生が俺を好きでいてくれること、俺が宝物にしてるみたいに。




「ジジィ、一つ勘違いしてる。
しぶとく生きててもポックリ逝ってもジジィはジジィなんだからな!
ジジィなんか、
ジジィなんか、結婚して幸せになっちまえ!」

「俺だって、クソガキは何処に行こうともクソガキだからな!
クソガキなんて向こうの親といい感じになればいい!

いつだって、お前の帰る場所はあるんだからな!」

二人共口の端が持ち上がるのを我慢していた。

拳をぶつけ合って何かの儀式でもしたみたいだ。

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