《MUMEI》

何だか言い訳してるみたいだなと思いながら、私は目を開けた。


「随分長かったな」


「そっちこそ」


孝太は私と一緒で、まだ立ち上がっていなかった。


私は立ち上がった。


(良かった)


今年は、何事も無く帰れそうだと思った。


「じゃあ、行きましょうか」


私の言葉に孝太は無言で頷いた。


私達は、水桶を返す為に倉庫に向かった。


(…げ)


そこにいた団体を見て、私は足を止めた。


「どうした?」


孝太が声をかけてきた。


「あ、あのね、…」


すると、団体が私に気付いた。


「蝶子ちゃん、やっぱり今年も来てくれたんだね」


一人の中年男性が、私に駆け寄り、私の手をギュッと握りしめた。


「お久しぶりです、光二(こうじ)おじさん」


彼は、母・一子(いちこ)の弟だった。


「光二でいいっていつも言ってるだろう?

…また姉さんに似てきたね?」


「そうですか?」


私の目元は父に良く似ているのに。


「そうだよ。髪もまた伸ばせばいいのに」


そう言って、光二おじさんは私の頭を優しく撫でた。

光二おじさんは昔から私に優しいが、私は何故か好きになれなかった。

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