《MUMEI》

三枝さんの言葉を否定しようとした途中で、光二おじさんが大声を出した。


「光二、落ち着け」


「そうよ、ここをどこだと思っているの?」


祖父母に注意され、光二おじさんは小さく『ごめん』と謝り、私から手を離した。


「行くぞ、蝶子」


「あ、…うん。…それじゃ、失礼します」


「待って、蝶子ちゃん。『あの話』、もう一度…」


「それは…」


何度も断った話だった。


「いい加減にしろ、光二」

「そうよ。太郎さんだって、蝶子ちゃんだって、その気は無いんだから」


祖母が言うように、父も私もその気は無かった。


「それより、兄さん、結婚したら?」


三枝さんが言うように、光二おじさんは独身だった。

だからこそ、『あの話』を私や父に提案してきたのだった。


「蝶子は、『伊東蝶子』だ。『山田蝶子』にはならん。そうだろう?」


祖父の言葉に、私は頷いた。


光二おじさんは母が亡くなったその時から、私を引き取りたいと


山田家の養女にしたいと


一人で言い続けていた。


光二おじさんは、母ととても仲が良かったらしい。


そのせいか、父の事をとても嫌っていた。

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