《MUMEI》 孝太から携帯を返され、父が言った言葉を聞いた私は耳を疑った。 「あのね、父さん」 《いい友達だな、蝶子》 『友達』 「う、うん、そうなの」 (良かった) 『恋人』や『彼氏』でなくて、私はホッとした。 《蝶子と同い年の妹さんもいるんだって?》 「うん、それでね」 《いいよ、友達は大事にしないとね 明日の朝、迎えに行くから》 「え?」 (…朝?) 《じゃあ、孝太君とご家族の方に、よろしくね》 そう言って、父は電話を切った。 「え〜と、…どういう事?」 「これから俺の実家に行って一晩泊まるって事」 「あぁ、そういう…」 あまりにもサラリと言うから、普通に納得しそうになった。 「じゃなくて! 何でそういう事になってるの?」 「琴子の希望で」 「…は?」 (琴子さんの?) 「蝶子とゆっくり話したいらしい。 蝶子が来ないなら、和馬と一晩過ごすからって… 頼む」 珍しく孝太が頭を下げた。 兄として、妹が彼氏と一晩過ごすのを避けたいのだろう。 (…ていうか、琴子さんて、すごいな) 孝太を脅すなんて。 「頼む」 「…わかった」 前へ |次へ |
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