《MUMEI》 桜 (さくら)◇◆◇ 穏やかな日和。 淡い香りを纏った花びらが風に舞う。 その中を、花姫を乗せた牛車がゆっくりと進んでいた。 平安京の南──朱雀大路。 その場所に佇む、一人の若い男と女。 二人は花姫の到着を待っている。 「‥‥姫君はまだお出ましにならないか」 「心配したってしょうがねぇだろ?」 「‥お前は呑気なものだな」 「お前は考え過ぎだって。あたしなんか全然心配してねぇのに」 「俺達は姫君の庇護を任されている。その事を忘れるな」 「はいはい、相変わらず固いなぁ‥」 表情一つ変えない草薙に対し、黒蝶は朗らかだ。 大雑把と言う方が正しいかも知れないが。 そんな二人の沈黙を破ったのは、清らかな声音。 「───あのー‥」 きょとんとした様子で二人を見上げるのは、幾重にも衣を纏った少女。 年は十五位だろうか。 銀色がかった髪に、紫の瞳。 裳着を済ませているとはいえ、その容姿にはまだあどけなさが残っている。 彼女が花姫──咲弥である。 「初めまして」 咲弥が挨拶すると、黒蝶はしげしげと彼女を見つめ、やがて口を開いた。 ◇◆◇ 前へ |次へ |
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