《MUMEI》

有理は無防備にも顔を出したままだった。慌てて嫌がる有理にメガネをかけさせ、前髪も下ろさせる。

「バカ!なんでそのまま来てるんだよ。バレたらどうするつもりだったんだ」

「忘れてたんだよ。いちいちうるせぇな」

反論しようとした時だった。

「谷口くん!早く来て、手伝って!!みんな谷口くんを見に来てるんだからっ」

「あ……ゴメン!今行くよ」

「みんな谷口くんを見に来てるんだから……か」

有理が小さく笑ったのがわかった。

――バカにしやがって。

「野中さん、ゆっくりしてってください。お昼になったら、オレの彼女も来るんで一緒に周りませんか?」

「そうですね」

「昼から来るんだったら流理の働く姿見られないじゃん」

「明日は1日オフにしてくれたんだから文句は言えないんだよ。じゃあ後で」

オレは教室に戻り、早速注文を取りに行った。

「車椅子の人も来てるね」

とクラスの女の子達が話している。

「あれ、オレの弟なんだ」

「え…本当?」

「本当。最近、病気で歩けなくなったんだ」

「そうだったの」

みんなはオレの弁論を聞いてるから、オレの家庭状況を知ってる。

同情してるのはわかってる。けどそういう状況だから仕方ない。

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