《MUMEI》

部屋の中を一瞥し、

煎れたてのコーヒーと花束、

お菓子を畳の上に供えた。

目の前のカーテン、

畳にははっきりと鮮血が残っている。


「ゴメン。」


オレは守れなかった。

日常に埋もれる中、母はどんな思いだったのか?


警察署での取り調べで母の死亡推定時刻はわかっていた。


オレはその日その時間、
何でもない事で彼女を怒らせていた。


一緒にテレビを見ながら何でもない昔話をし、

何でもない言い合いをしていた。


ちょうど、
その時間だ。


「ゴメンね。」


思い出す。


あの日、
母の訃報を伝えにきた警察官を残し、

絶望し憔悴するオレを強く抱きしめてくれた彼女が言った言葉。


「ゴメン。」


懐かしいコーヒーの香りはもう効力を持たない。


静かに爆発する思い。

カラフルな記憶。


崩壊する精神に免疫はない。

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