《MUMEI》 母は美容師だった。 オレが生まれる前からずっと美容師だった。 週6日勤務する母は実家での家事もこなしていた。 毎日、 睡眠時間は4時間程で 夜中になると食卓の椅子でうたた寝をしていた。 自分に費やす時間など、 とうに無かったと思う。 精神病を患う兄の世話も、基本的には母がしていた。 趣味や買い物をする時間もない。 だから、 せめてもの労いを込めて、 毎年母の誕生日には服や装飾品をプレゼントしていた。 オレは10年間分の贈り物をタンスから出し、それらを眺めた。 母は喜んでくれていた。 持っていってもらおう。 向こうで、全てを忘れて綺麗な姿でいてほしい。 もう、悩まないでくれ。 知っているよ、 弱音を吐かない笑顔の裏、アナタはいつも考えていたのを。 後はオレがやるから。 今はゆっくり休んでくれ。 前へ |次へ |
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