《MUMEI》

(何見てるのかな?)


Tシャツとジャージに着替えた私は琴子さんの方を見た。


琴子さんはすごく熱心に、手元の本を見ていた。


本のタイトルは…


「『簡単! 美味しいおかず』?」


私が読み上げると、琴子さんの手が止まった。


「もしかして、今日の夕飯ですか?」


私の言葉に、琴子さんは頷いた。


(あれ? でも買い物してきてたよね?)


私が首を傾げると、琴子さんは『確認』と言った。


「何作るんですか?」


私の言葉に、琴子さんは本を指差した。


半熟トロトロ親子丼


豆腐と三つ葉のすまし汁


さっぱり春雨サラダ


ころころタラモサラダ


(和馬と孝太の好物が混ざってるな)


特に、親子丼は和馬の大好物だった。


「いつも夕飯作ってるんですか?」


私の質問に、琴子さんは首を横に振って、『初めて』と小声で答えた。


「…頑張る」


(何だか、可愛いな)


応援したくなった。


だから、私は


「私も手伝いましょうか?」


と言った。


「でも…」


「ほんの少しだけ」


全部手伝ってしまったら、『琴子さんの手料理』にならないと思った。


「じゃあ…」

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