《MUMEI》
夕飯
私は琴子さんと一緒に一階の台所に行った。


「母さん」


「ん? あぁ、蝶子ちゃんにも手伝ってもらうのね?

待ってて、今エプロン出すから」


琴子さんの一言で、二人の母親は、素早く行動した。

(あれ?名前…)


私は自己紹介をしていなかったのに。


「和兄に聞いた」


首を傾げる私を見て、琴子さんが説明した。


「はい、これ!」


「ありがとうございます…おばさま」


「やだ、『母さん』でいいのよ!」


「いえ、それはちょっと…」


別に私と孝太は付き合っていないし。


「じゃあ、孝子(たかこ)でいいわよ! 父さんは、裕太(ゆうた)だからね!」


「はい…」


底抜けに明るい孝子さんは、顔つきが孝太と琴子さんに似ているだけに、接していて違和感があった。


「こっち」


私は琴子さんに手を引かれ、台所にやってきた。


整理整頓された、綺麗な台所だった。


「お、今日は二人で作るの?」


居間でくつろいでいた和馬がやってきた。


琴子さんはコクンと頷いた。


「楽しみだな、あ、琴子。ちょっと待って」


和馬は琴子さんの後ろに回り込み、エプロンの紐を、時間をかけて結んだ。

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