《MUMEI》 (何だか新婚さんみたいだな) 私は借りた白いエプロンの紐を自分で結んだ。 それから、手を洗う。 「…お前も作るのか?」 孝太も台所にやってきた。 「お手伝いするだけよ」 「琴子。蝶子ちゃんは料理上手だから、いっぱい手伝ってもらえ」 和馬の言葉に琴子さんは首を横に振った。 和馬が首を傾げた。 「今日は、和馬さんと孝太さんの好きな物を、琴子さんがちゃんと作りたいのよ」 私の言葉に、琴子さんがほんの少し赤くなった気がした。 「そうか、頑張れよ」 和馬は見たこともないような優しい笑顔で、琴子さんの髪を撫でた。 (やっぱり、本命は違うな) それは、私や、商店街の女性陣や、『シューズクラブ』のお客に向けるヘラヘラした笑顔ではなかった。 そして、琴子さんは調理を始めた。 料理は初めてと言っていたが、調理実習の経験は誰にでもある。 琴子さんの料理の仕方は、調理実習そのものだった。 元々孝太に似て、真面目な性格なのだろう。 材料も、調味料もきっちり計っていた。 包丁の使い方も危なげない。 ただ… 要領が悪かった。 「あのね、琴子さん」 前へ |次へ |
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