《MUMEI》
―――一年前まで…
好きだってお互いに何度も言って
キスして抱きあっていた。
その頃の俺の、罪悪感に溢れた『好き』を…
直哉は気がついていたんだろうか?
「――――――なお」
本当に…心から好きだって…、今まで言えなくて……ゴメン。
―――日が堕ちかけ、コスモスが寂しそうに揺れている。
この一年でお互いの世界がまるで変わってしまった。
でも確かにあの頃の俺達は――――――。
――――
―――――好き…
――好き…。
子供過ぎる毎日の中で直哉からたくさん、大切なものを貰った。
――そして―
――直哉は――――――――
今でも俺を愛している
―――
――最後に俺に与え様としているもの―――
決別に近い解放。
――そしてそれを
各々の未来に繋いでいこうとする。
その先に俺達は交わる事の無い、
子供過ぎた日常からの卒業の時。
「――――なお、
俺は絶対になおの事忘れない」
直哉は微かに頷いて…くれた気がした。
おばさんに支えられながら病院の中に入る姿を俺は最後まで見送った。
こんなにも、こんな時なのに、ふと何度も秀幸がよぎった自分に苦笑いしてしまう。
――重症。
「――秀幸、何時までそこに居んだよ」
「何だよ、気づいてたんかい」
秀幸は煙草を吹かしながら物陰から出てきた。
「――ここ禁煙だぞ?」
「見逃せよ」
俺はバッグから携帯灰皿を出し秀幸に渡した。
「―――秀幸」
「ん?」
「―――ただいま」
そう言ってから、唇を合わせると大好きな煙草の匂いがした。
秀幸は軽く俺の腰に手を添えてきた。
「―――おかえり、裕斗」
そして今度は少しだけ深いキス。
―――俺は…
俺は…
「愛してる、秀幸が…堪らなく…愛しい」
「――分かってるよ、俺はお前を絶対に……離さねえ」
―――再びキスを交した。
むやみに深く求める事もなく、お互いに唇をゆっくりとついばみあって……。
何度も角度を変えて、何度も心の中で、
俺はこの人を愛していると叫んだ。
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