《MUMEI》
心地ヨク
林太郎は彼女の許へ足繁く通った。

林太郎が商人の頃の話を面白可笑しくすれば熱心に頷き、手を叩いて喜んだ。
そんな彼女を見ては満足するのだ。

また、彼女の聲で聴く洋書は普段家で學ぶものよりも耳に入った。
読み切ると頁を破り紙飛行機を折り林太郎へと飛ばして呉れる。

彼女から聴かされた洋書は林太郎の部屋に並べられ、其の甲斐あって好きな勉学の一つと成っていた。


「俺ばかり話して何だか五月蝿くありませんか?
貴方の話も訊いて良いですか?」

「貴方のお話は愉しいです。私は幼少から体が弱く家から出られない生活でした。そんな私だから読書や窓の景色で外の世界を想像していました。貴方に聴かせる朗読が精一杯の今の私の気持ちなのです。
私が返せるのはそんなものだけなのです。」

彼女が憂いを帯びてしまう。

「では、貴方は俺の為だけに読んで下さっているのですね。
俺なんかには勿体ないくらいです。」

林太郎は僅かでも長く彼女に喜んで欲しいと願った。

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