《MUMEI》

「交代ね」


私の言葉に琴子は無言で頷き、湯船から出た。


今度は私が湯船に入る番だった。


「綺麗な髪ね」


「和兄、長い髪が好きだから」


琴子は念入りに髪を洗っていた。


(私も、昔はそうだったな)

『俊兄』が、長い髪が好きだから、髪を伸ばした。


『短い髪だって…』


不意に、花火大会の夜を思い出した。


「蝶子、大丈夫?」


「な、何が?」


「赤い」


琴子に言われて私は自分の両頬を押さえた。


熱いのは、お湯のせいでは無かった。


「のぼせた?」


「ううん、大丈夫。いつも結構入ってるし」


「そう」


それから琴子は体をサッと洗った。


「あ、じゃあ…」


「詰めて」


「え?」


湯船に琴子が入ってきた。

慌てて避ける。


「もう少し、二人で話したいから」


「う、うん」


(何か、変な感じ)


私と琴子は、湯船で並んで座っていた。


「和兄、連れてきてくれて、ありがとう」


「…良かったね」


私の言葉に琴子は無言で頷いた。


仲直りしたかどうかは、二人を見れば直ぐにわかった。


「何も知らなくて和兄を傷付けたから会いに行けなかった」

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