《MUMEI》

『何も知らなくて傷付けた』


その言葉にドキッとした。

「和兄は私にずっと嫌われてると思ってたって。…兄さんに誤解は解いてもらったけど、…私が会いに行かなかったから。
自分から会いに行くのは怖かったんだって」


「そうなんだ」


(俊彦は、違ったけどな)


多分、俊彦が私を追いかけて来たのは、私の誤解を解くためだと思った。


「だから、…俊彦さんが妬ましくて、羨ましくて…

後で和兄も謝ると思うけど
ごめんなさい」


「それって…」


何となく、和馬の話の予想がついた。


「あとね、蝶子」


うつ向いていた琴子が顔を上げた。


「何?」


「兄さんの事なんだけど…」


その言葉に、私はギクリとした。


『どう思ってる?』
『好き?』


そんな言葉が続くと思った。


しかし、琴子が言ったのは、意外な言葉だった。


「思い出してあげて」


「…え?」


「先に上がるね」


言うだけ言って琴子は湯船を出た。


私はしばらくぼーっとしていたが、のぼせる直前で湯船を出た。


(何だろう、さっきの?)


脱衣所に既に琴子はいなかった。

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