《MUMEI》

そのまま休憩室を出ると、外はまだ暗く、空気が張り詰めたように寒かった。
冷えた風が感覚的な微小の針となって頬を突き刺す。闇を照らす街灯と人影にデジャヴ、あいつと別れたのもここだったな、思い出しても不思議と胸は痛まない。

伊達眼鏡の店長は、寒いと呟きながら近くに並んだ自販で缶コーヒーを買っていた。

「‥‥で、さぁ」

自販のほうを向いたまま、店長は口を開いた。白い息とともに吐き出される言葉には、何の感情も見えない。

「もう何となくわかっちゃったから確認するけど、英田は近藤のことが好き、なわけ?」

性的な意味で、と付け加えられる。さばさばと湿度のない口調は俺に気を使っているのか、何なのか。

何て言えばいい?

自分の中ではある程度整理の付けられた感情でも、他人に理解してもらうことは到底無理に思えた。俺は男で、アイツも男、で。ひかれるかな、ひかれるだろうな。これでバイト先居づらくなったらかなり痛い、な。

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